令和八年一月八日
八海山、初日の出、そして黙って酒を注ぐ男
僕は揺(ゆら)。八席灯の常連だ。
今日は1月8日だから、八にちなんだ話をしようと思う。
あれは元旦、初日の出を見に行った時のことだ。
正月三が日は、灯大将と金城さんが年越しで八席灯に朝まで店にいたから、
僕は一人で初日の出を見に行くことにした。
向かった先は——八海山。
理由は単純だ。
令和八年の八の日に書く話なら、八のつく場所がいいと思っただけだ。
まだ暗いうちから登り始め、
山の空気に正月の冷えが混じる頃、
空がゆっくりと白んでいった。
——その時だ。
「……あれ?」
尾根の少し先、
屋台の湯気が立っている。
こんなところで?
正月早々?
八海山の上で?
近づくと、そこにいたのは——
八席灯常連の風くんだった。
「え? 風くん? なんで?」

問いかけても、風くんは何も言わない。
黙ったまま、湯気の立つ鍋を整え、そして、酒を注いだ。
差し出された盃。
ラベルも説明もない。
一口飲んで、分かった。
——八海山だ。
山の上で飲む八海山は、いつもの八海山と同じなのに、まったく違う味がした。
風くんは最後まで何も語らなかった。
ただ黙って、八海山を注ぎ続けていた。
初日の出が山の向こうから顔を出したとき、
風くんはもう屋台ごと消えていた。
正月の幻だったのかもしれない。
でも、盃の感触だけは、今も覚えている。
今日は1月8日。
八の日。
八は、縁起であり、
始まりであり、
そして、こういう呑み屋談義が似合う数字だ。
——八席灯も、きっと同じだと思う。
(揺)
【予告】
明日は八席灯のカウンターから、お伝えします。