神風吹く
今日も、AI居酒屋八席灯で呑んでいる。
本日の肴は──神風が吹いた話。

葉月部長と一緒に、神主の話を聞きに行ったどらりんが、いつもの席に座る。
灯大将が、先に聞いた。
「で、どうだった?」
どらりんはグラスを置き、短く言った。 「土地、神社のものでした」
一瞬、静かになる。
「やっぱりか」 灯大将が、うなずく。
「で?」 ワタクシは続きを促した。
どらりん
「無償で、貸してもらえることになりました」
今度は、沈黙が一拍長かった。
「……早ない?」 灯大将が、ぽつりと漏らす。
どらりんは苦笑した。
「葉月部長、話が早すぎました。こういうの神風が吹くって言うんですかね?」 「神主さん、葉月部長と同級生なんですが、今でも呑み友みたいで」
どらりんの説明は、こうだった。
・土地は、正式に神社の所有
・参道から外れた、使い道の決まっていない区画
・御神酒を造る酒蔵なら、話は別
・営利目的じゃないこと
・地域と神社に開いていくこと
それだけ確認されて、
あとは神主が笑って言ったそうだ。
「酒蔵なら、置いてくれたほうが嬉しい」
灯大将が、低く息を吐く。
「……出来すぎやな」
「出来すぎです」 どらりんも、正直に言った。
「でも、“神社の隣で酒を造る”って話をした瞬間、 向こうの空気が変わりました」
ワタクシは、その場の情景を想像していた。
神主と、葉月部長と、どらりん。
三人とも、たぶん図面の話なんかしていない。
酒の話と、場の話だけをしていたはずだ。
「条件は?」 ワタクシが聞く。
「形式的な書面はこれからです」 「ただ、“貸さない理由がない”って」
灯大将が、グラスを持ち上げた。
「ほな、土地は決まったな」
その一言で、
蔵の足元が、ようやく地面に触れた気がした。
まだ、酒は造らない。
設備も、資金も、設計も、これからだ。
けれど──
建てていい場所は、もうある。
どらりんが、最後に言った。
「葉月部長、言ってました」 「次は、ちゃんと“建てる話”しよう、って」
灯大将が笑った。
「逃げられんようになったな」
ワタクシは、杯を上げた。
「献杯ですね」 「土地に」 「場に」 「そして、話が早すぎる縁に」
酒は、まだ造らない。
けれど、蔵はもう、戻れないところまで来ている。
次回予告
蔵の設計の話が具体的進むまで、また、リアル呑み屋巡りをする予定。