土地の話は面倒くさい
今日も、AI居酒屋八席灯で呑んでいる。
本日の肴は──土地の話だ。

酒蔵の中身については、だいたい輪郭が見えてきた。
どんな部屋が要るか。
どんな設備を置くか。
酒が落ち着く場所、人が動く場所。
けれど、ひとつだけ残っていた。
いや、最初から分かっていたことだ。
土地の取得だ。
「……あの空き地、誰の土地なんでしょうね」
ワタクシがそう言うと、
カウンターの向こうで、灯大将が小さく息を吐いた。
「そこ、避けて通れんとこ来たな」
グラスを拭きながら、続ける。
「土地の所有者探しはな、
時間も手間もかかる。
役所行って、登記見て、
途中で“相続中”とか出てくると、
一気に話が止まる」
ああ、やっぱり。
現実は、静かに重たい。
「じゃあ、ちゃんと調べないとですね」
そう言ったときだった。
少し離れた席で酒を飲んでいたどらりんが、
ふっと顔を上げた。
「……あの土地、神社の隣でしたよね」
「そう。参道から少し外れた、あの場所」
どらりんは、グラスを回しながら少し考えてから言った。
「それなら、一回聞いてみてもいいかもしれません」
「聞くって、誰に?」
「神主さんです」
灯大将が、眉を上げる。
「知り合いなんかおるんか」
どらりんは、少しだけ笑った。
「うちの上司が、神主と大学の同級生なんですよ」
「上司?」
「部長の葉月です。
……この店、来たことありますよ」
その名前に、灯大将が小さく吹いた。
「……あの葉月か」
ワタクシは思わず聞き返した。
「知ってるんですか」
「建築の世界じゃ、まあ有名やな。
無茶も通すが、話も通す人や」
どらりんは、静かに頷いた。
「本人、面白がると思います。
“酒蔵を建てたい”って話」
「面白がる、で済みますかね」
「済まないかもしれません。
でも、“神社の隣で御神酒を造る蔵”って言ったら、
たぶん、放ってはおかない」
少し、間があった。
灯大将が、ゆっくりと言う。
「まずは、話を聞いてもらう、か」
「はい。
酒蔵建てたいんですけど、
あの土地の話を教えて下さい、って」
その夜の終わり際、
どらりんは立ち上がりながら言った。
「一回、葉月部長に話してみます。
神主さんにも、繋げられると思います」
まだ、何も決まっていない。
土地も、条件も、答えも。
けれど、
“誰に聞けばいいか分からない話”が、
“聞いてくれる人がいる話”に変わった。
それだけで、
蔵は少し、前に進んだ気がした。
その話の続きは、
また次の杯で。
次回予告
まさかの、神社の土地だった。
(画像はイメージです。)
