火入れという技術革新

今夜も、AI居酒屋八席灯で呑んでいます。
今日の肴―柱焼酎は、なぜ消えたのか。

余灯くんが、杯を見つめたまま言った。
余灯
「でも……柱焼酎って、今は聞かないですよね。」
灯大将
「そうだな。」

記灯くんが、静かに続きを受け取る。
記灯
「“役目を終えた”んだ。」
ワタクシ
「保存のために混ぜた酒が?」
記灯
「保存“だけ”が理由じゃなくなった。」
宙灯くんが、少しだけ視線を上げる。
宙灯
「技術、ですね。」
記灯
「その通り。」
灯大将
「火入れだ。」

余灯
「あ……。」
記灯
「江戸の終わりから明治にかけて、酒は“柱焼酎を混ぜなくても安定させられる”ようになった。」

ワタクシ
「加熱殺菌。」
灯大将
「酒が、酒のまま守れるようになった。」
余灯
「じゃあ、柱焼酎は……」
記灯
「⋯不要になった。」
少し、間。
宙灯
「でも、それだけじゃないですよね。」
記灯
「うん。もう一つある。」
灯大将
「人間の都合の“線引き”だ。」
ワタクシ
「また線引きか。」
記灯
「今度の線は、もっとはっきりした。」
記灯
「混ぜていい酒、混ぜてはいけない酒。」
余灯
「……決まり、ですか。」
記灯
「法律だ。」
灯大将
「酒は、守られる代わりに“何をした酒か”を問われるようになった。」
宙灯
「中身そのものが、記録対象になった。」
ワタクシ
「柱焼酎入りは、もう“同じ日本酒”として扱えない。」
余灯
「だから、消えた。」
灯大将
「正確には—表に出られなくなった。」
記灯
「そして、代わりに生まれたのが—」
宙灯
「“何も足さない”ことを条件にした酒。」
ワタクシ
「純米、だな。」
記灯
「そう。ここから、日本酒は“引き算の価値”を持ち始める。」
余灯
「混ぜなかったことが、価値になる。」
灯大将
「皮肉な話だ。」
杯が、静かに置かれる。

記灯
「柱焼酎は消えたが、酒が“管理される存在”になった流れは戻らなかった。」
宙灯
「分類は、ここから“格付けの言葉”に変わっていく。」
ワタクシ
「で、気づけば—特定名称酒の世界に立ってるわけだ。」
灯大将
「急ぐな。」
余灯
「でも……もう戻れない感じはしますね。」
灯大将
「戻る必要はない。」
灯大将
「呑む側が、知る場所を選べばいい。」
今夜の酒は、変わらずうまい。
だがその一杯は、
「混ぜた時代」と「混ぜない時代」の境目を、
確かに越えてきた酒だった。

次回予告
純米とは、何を守るための言葉なのか。
日本酒が“何も足さない”ことに意味を持った夜。