新宿西口 小料理kokoroその1

呑兵衛は真っ直ぐ帰れない。
今日の肴―満腹と理性は比例しない

赤獅子で浜焼きをやり切った夜である。
帆立よし。
ホッケよし。
白子はもう事件。
日本酒も重ね、満腹メーターは振り切り。
腹はパンパン。理性はふわふわ。
「今日は完璧だな。帰ろう。」
そう言って店を出る。

5分後。
「……せっかく西口まで来たんだしな。」
出ました。
酒飲みの常套句ランキング第1位。
“せっかく”。

寒風が吹く。
吐く息が白い。
その瞬間、脳が言う。
外側は網の間からの熱気で火照ってさえいる。
でも五臓六腑はどうだ?

満腹のくせに、
身体が“お燗”を欲し始める。
「一杯だけだぞ」
この“だけ”が信用できた試しがない。

通り道にあるのが行けないのだ。
kokoroの暖簾をくぐる。

店内、ほぼ男性。
静か。
低い声。
徳利率、高め。
ここは騒ぐ店じゃない。しみる店だ。
舞女将がにこやかに言う。
「あら、珍しい女子連れなんて。ということは、今日は天隠ですよね。

ワタクシ
「こちらがkokoroの舞女将。男性客は女将の指示に従う。それがこの店の掟。」

ワタクシ
「女将。こちらは凛ちゃん。お燗が呑みたい、いうから連れて来た。」

島根の天隠の燗酒、それも女将が燗をつければ極上の味になる。ワタクシは女将のチョイスを支持する。

徳利が置かれる。

ひと口。
……あ。
やさしい。
赤獅子でレッドゾーンだった胃袋に、
「落ち着こうか」と語りかける味。

凛「五臓六腑に染み渡るぅ。いうなれば呑む毛布ですね。」

満腹でも入る。
なぜならこれは食べ物ではない。
お燗だから。

隣のサラリーマン二人組。
「いやぁ、今日寒いっすね」
「だな」
静かに神亀を頼む。(常連になると銘柄を頼んでいい人もいる。)

神亀キタ~。

燗界の安定株。
天隠がふわ毛布なら、
神亀は“重めの高級毛布”。
包まれ感、増し。
隣の男性、うなずきながら一言。
「やっぱ燗だよな」
この一言の破壊力。
血圧も上げない。
声量も上げない。
でも幸福度は上げる。

それは女子も同じだが、現実は男性率高め。
だがいい。
文化は静かに広がるもの。
「今日は一杯だけ」だったが、他人芝生は青く見える。

ワタクシ
「女将、その神亀こっちもお願いしてよろしいでしょうか。」
舞女将「凛ちゃんがまた来てくれる前提で、出してあげる。」
やった神亀ゲットだぜ。しかも「ひこ孫」じゃん。

人は満腹でも、お燗は別腹なのだ。
その2に続く。