純米吟醸 七冠馬 山廃仕込み 銅羅右衛門 【島根県】

銅羅左衛門(栃木)」「呑美多(熊本)」に続き、今回もまたまたDORA series(銅羅シリーズ)の一本です。
島根県出雲町の簸上清酒(ひかみせいしゅ)の酒です。

酒の名前「七冠馬」の由来は、圧倒的な強さを誇った競争馬「七冠馬」「皇帝」と称されるシンボリルドルフにあるようです。
シンボリルドルフは、サラブレッドの国際的な競りを統括するICSCが認定した最高格付けの競争であるG1で勝利を積み重ね、中央G1で史上最多の7勝を達成しました。
馬主の「シンボリ牧場」のルーツは島根にあり、またオーナー家の息子さんと蔵元の娘さんが’86に結婚した縁もあり、「七冠馬」の銘柄を作ったようです。
「七冠馬」のシリーズは、ヨーロッパや香港のコンテストで様々な受賞歴があるようです。
今回は、その「七冠馬」シリーズで、尚且つ銅羅シリーズの主役(?)である「銅羅右衛門」です。

アルコール度17%
佐香錦100%
精米歩合50%

今回は「山廃」仕込みとは何ぞや?という話です。
「山廃」とは何ぞや?という前に、まず「生酛」とは何ぞや?という話になります。

「生酛」は明治時代中盤まで主流だった、自然の力を利用した昔ながらの日本酒の造り方。
代わって現在主流の造り方は、明治末期に始まった「速醸酛」です。

酒母(醪のアルコール発酵を担う酵母を大量に培養したもの)造りには酵母が増えるまでの期間に雑菌が増えるのを防ぐために酸性の環境を作る必要があります。
酸性環境を作るために乳酸を利用します。
酒母の材料に最初から乳酸を加えると環境は酸性になり、雑菌増殖を抑えながら乳酸に強い酵母の増殖を待つことができます。
これが明治末期に始まった「速醸酛」です。

それに対して、仕込みの際に乳酸の添加を行わない昔ながらのやり方が「生酛」です。
「生酛」では、以下のような工程があります。
山卸(やまおろし)→打瀬(うたせ)→暖気入れ(だきいれ)→酵母添加
蒸米に米麹, 仕込み水を加えて数時間おきに何度か混ぜ合わせた後、数時間おきに何度かこれをすり潰す作業を行います。
これを「山卸」と呼びます。
できた酛をタンクに入れて、氷の入ったアルミ管を入れて3~4日間6~7℃に冷やす「打瀬」を行います。
その後にタンクに熱湯の入った樽を入れ温度を上げる「暖気入れ」を行い、蒸米の糖化を進め、乳酸菌の増殖を促します。
「生酛」では、木製の樽や桶などの酒造用具など蔵に棲む蔵付き乳酸菌が自然に増えるのを待つため、酒母が完成するまでに「速醸酛」では約12日で済むのに比べ、「生酛」では約25日要するとされています。

要は「生酛」で酒を造ると時間と手間がかかります。
さらに「山卸」の作業は重労働で辛いとされており、これを省いたのが「山廃(山卸廃止酛)」です。
最初から材料をタンクに入れ、染み出してきた麹の酵素が含まれた液を蒸米に何度もかけて、蒸米を潰す作業なしに酵素の作用だけで蒸米を溶かす方法です。
「山卸」の作業を略していますが、酒母ができるまでは「生酛」とほぼ同じ日数を要しますし、味も科学的にも違いは判然としないとされています。
ちなみに「生酛」「速醸酛」では、「速醸酛」が淡麗でスッキリした味になるとされているのに比べ、「生酛」の方はアミノ酸, ペプチドが多くなり、コクや味わいが濃厚になるとされています。

そんな手間暇かけて「生酛」でお酒を醸すのですが、「きついから「山卸」だけは勘弁してよ、味は「生酛」と変わらないから 」と言うのが、「山廃」表示です。

ラベルには、ロック~冷や~常温~ぬる燗で。
蔵主はぬる燗(39~41℃)で楽しむ、とあります。

口に含むとまず辛味を感じますが、すぐに退き、ほどよい甘みと酸味が残ります。
「七冠馬」だから馬刺し (競走馬オーナーさん方には申し訳ない…)という短絡的な理由で合わせてみました。
たまにサシが入った馬刺しを食べると確かにとろけるようで超絶美味いのですが、普段は安いし肉本来の甘みを感じて好きな赤身です。
馬刺しの味を洗い流す…という感じではなく、肉の甘みと酒の甘み、お互いの違った甘みが引き立つ組み合わせでした。

出雲町ってところにあるし、そのうち出雲大社参拝 に行った際に酒蔵見学にも行ってみようかと思って調べると、出雲大社から60kmほどあるじゃないですか!?
参拝後、ちょっと散歩がてら酒蔵にでもと思っていたらダメでしたね…。